小説・美貌への招待。其のニ
矢田家の表に着くと、警笛を鳴らし、ドアを開けて女中で迎の中に、
夫人の降り立つのに隆史が顔を下げると。
「隆史、あなたコレなによ、誰か乗せたの?」

夫人の差し出したものを見ると、10センチ角位の小箱が、包装紙に
綺麗に包まれて居た。隆史はハッとする。浜口夫人の忘れ物だ、
と直感した。

言っても良い物か、悪いものかと、少々躊躇ったが、
「はぁ、実は浜口さんの奥様が、ついさっき・・・」
と正直に報告した。最もドライブを頼まれた事、一万円貰った事は隠した。

「今日はもう良いわよ、次からは断るのよ。いいわね・・・。おやすみ・・・」
やっぱりご機嫌を損ねてしまったかと、隆史は恐縮して、うな垂れた。

夫人が、紙包みを持った侭玄関を上がって行く姿を見送ってから、
自分の部屋に入り、ごろりと寝そべっていると、女中の菊枝が遣って来た。

「隆史さん、奥様がお風呂済ませれたわよ。
 お次ぎは隆史さん入って下さいな、私は一番後で頂くから。
 あんた、浜口の奥さんを車に乗せてあげたの?
 あの人、なんか言ったんでしょう?不良マダムなのよ。
 気をつけないと誘惑されるわよ。ねぇ、どんな事言われたの?」

この女、近頃いやにべたべたと色気づいて、隆史に付きまとうので、
隆史は煩わしくて仕方ないのである。顔は十人並みだし、歳も二十三歳の、
良い身体つきをしているが、どうも少し肉感的すぎて、隆史は苦手である。

『別にどんな事も言われては居なさ、ただ乗せて上げただけだよ』
「本当かね、あの奥さん、若い人好みだから、
 あんたに気が有るの、わたし知ってるのだもの・・・」
馬鹿な事を言う奴だ、隆史は思った。彼は手拭を下げて上に上った。
「怪しいわね、だまって逃げるところをみると・・・」
 
浴室に遣って来て、タイル張りの浴槽に身を沈めて目を瞑っていた。
この邸に来てから、まだ三ヶ月にしかならないが、
如何やら此処の主人夫婦の、しっくりといってない様子が、
子供の居ない事や、主人の矢田健一郎氏が、愛人宅に屡寝泊りして居る事で、
凡そは察しられる。夫婦が談笑する声なんか一度も聞いたことが無いので有る。

隆史は、夫人が気の毒だと思っていた。きっと寂しくって、
夜着の襟を涙で濡らして居るのだろうと、同情する気持ちが、
何時の間にか、ある感情にまで進んで居るのに彼は有るとき気付いて、
ハッと顔に血の昇るのを覚えたのである。

隆史は、今年二十五歳。郷里の群馬から、
ある縁故でこの矢田家に使われる身となり、朝夕の主人の送迎と、
夫人の社交やら遊びやらのお供、車はトヨタの最高級車レクサスで、
仕事は楽で暇も有るし、収入も悪くなく、不満のある筈は無いのだが隆史は、
何か近頃気分が重いので有る。

突き詰めて行くと、如何やら原因が、知加子夫人に有ると言う事に気付いた時、
彼は、自分で否定しょうとしたが、夢の中で、夫人を汚している己を知ると、
この心の偽りでない事が判るのだ。

隆史が、瞼の中で、夫人の冷やかな彫りの深い顔を思っていると、
突然、浴室の換気用の小窓がスッと開いて、菊枝の顔が覗いた。

「お湯加減は如何ぅ?流してあげようか、背中を?」
黙っていると、それを頼まれたものと思い込んでか、直ぐ入り口の方へ廻り、
スカートをたくし上げて入って来た。

『良いんだよ、流して呉れなくとも・・・』
「遠慮しなくても良いじゃないのさ、さぁ、上がって此処へ腰を掛けなさいよ」
こうなれば、隆史は女の言う事に従うしかな外はない。

手拭で、前を覆って、浴槽を出たが、自分でも分からない内に、
一物が固く凛々として居るのに、思わず赤面してしまった。
背中を洗ってしまうと、菊枝は、隆史を自分の方に向けようとする。
隆史が拒むと、素早く自分から前に廻って両手で隠していた一物を、
マジマジと見守るのである。

「まあ・・・、ホホホ・・・、隆史さんたら・・・、
 ホホホ、そんなに恥ずかしいの?
 あんたって、本当におとなしいひとだねぇ。
 さぁ、洗ってあげるよ、手をどかして・・・」

仕方無しに、手を一物から離すと、ピーンと突っ立つ色黒の男根は、
如何なる鉄壁をも突き破らん勢いを示している。
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