『別にどんな事も言われては居なさ、ただ乗せて上げただけだよ』
「本当かね、あの奥さん、若い人好みだから、
あんたに気が有るの、わたし知ってるのだもの・・・」
馬鹿な事を言う奴だ、隆史は思った。彼は手拭を下げて上に上った。
「怪しいわね、だまって逃げるところをみると・・・」
浴室に遣って来て、タイル張りの浴槽に身を沈めて目を瞑っていた。
この邸に来てから、まだ三ヶ月にしかならないが、
如何やら此処の主人夫婦の、しっくりといってない様子が、
子供の居ない事や、主人の矢田健一郎氏が、愛人宅に屡寝泊りして居る事で、
凡そは察しられる。夫婦が談笑する声なんか一度も聞いたことが無いので有る。
隆史は、夫人が気の毒だと思っていた。きっと寂しくって、
夜着の襟を涙で濡らして居るのだろうと、同情する気持ちが、
何時の間にか、ある感情にまで進んで居るのに彼は有るとき気付いて、
ハッと顔に血の昇るのを覚えたのである。
隆史は、今年二十五歳。郷里の群馬から、
ある縁故でこの矢田家に使われる身となり、朝夕の主人の送迎と、
夫人の社交やら遊びやらのお供、車はトヨタの最高級車レクサスで、
仕事は楽で暇も有るし、収入も悪くなく、不満のある筈は無いのだが隆史は、
何か近頃気分が重いので有る。
突き詰めて行くと、如何やら原因が、知加子夫人に有ると言う事に気付いた時、
彼は、自分で否定しょうとしたが、夢の中で、夫人を汚している己を知ると、
この心の偽りでない事が判るのだ。
隆史が、瞼の中で、夫人の冷やかな彫りの深い顔を思っていると、
突然、浴室の換気用の小窓がスッと開いて、菊枝の顔が覗いた。
「お湯加減は如何ぅ?流してあげようか、背中を?」
黙っていると、それを頼まれたものと思い込んでか、直ぐ入り口の方へ廻り、
スカートをたくし上げて入って来た。
『良いんだよ、流して呉れなくとも・・・』
「遠慮しなくても良いじゃないのさ、さぁ、上がって此処へ腰を掛けなさいよ」
こうなれば、隆史は女の言う事に従うしかな外はない。
手拭で、前を覆って、浴槽を出たが、自分でも分からない内に、
一物が固く凛々として居るのに、思わず赤面してしまった。
背中を洗ってしまうと、菊枝は、隆史を自分の方に向けようとする。
隆史が拒むと、素早く自分から前に廻って両手で隠していた一物を、
マジマジと見守るのである。
「まあ・・・、ホホホ・・・、隆史さんたら・・・、
ホホホ、そんなに恥ずかしいの?
あんたって、本当におとなしいひとだねぇ。
さぁ、洗ってあげるよ、手をどかして・・・」
仕方無しに、手を一物から離すと、ピーンと突っ立つ色黒の男根は、
如何なる鉄壁をも突き破らん勢いを示している。