満月の夜の欲情。其の一

小豆島は、瀬戸内海に浮かぶ風光明媚な島です。
「二十四の瞳」という映画の舞台になった所で、オリーブの島としても有名です。
大阪や神戸から比較的近いという事もあって、四十年前の当時から、
夏になると浜辺の海水浴場に都会の男女たちがやって来て賑わいを見せていました。
そして眺めの良い高台には、金持の別荘なども点在していました。

あのころは、ほんとうに海も綺麗で、魚もたくさん獲れました。
私は、二十歳でした。べつに島が好きだと言う訳でも無かったのだけれど、
これと言った野心も無く、平凡な地元の漁師としての暮らしを送っていました。

私はもともと本を読んだりものを考えたりするのが好きな性質で、
そりゃあ満たされない思いは人一倍あったのですが、都会に出て一旗上げたいとか、
そんな野心はなかった、ということです。

そう言う野心は、むしろほかの漁師仲間の方が強く持っていた様な気がします。
なまじ都会に近いし、夏になればそうした華やかな男女を沢山見掛けたりもする訳で。
おまえは漁師にむいていない、とよく人から言われました。
騒々しい事が嫌いで、余り人付き合いが良くなかったからです。

四十年前と言えば、田舎にはまだまだ古いしきたりとか習慣といったものが残っていて、
海が好きだからと言うだけで漁師が務まると言うものではありませんでした。
誰も俺の事は判って呉れない・・・満たされなさの原因は、そう言うところにありました。
多分そんな悩みは、恋愛でもすればたちまち軽くなってしまうのでしょうが、
高校三年の時に手ひどい失恋をし、女性不信になり、それをずっと引きずっていました。
それに他の漁師仲間のように、水商売の女を相手に溜まった性欲を吐き出すという
遊びも、どうしても出来ない性分でした。

高校は、四国本土の高松まで通っていました。学校の先生は大学に進める学力は
有ると言って呉れたのですが、何しろ長男で、下には弟二人と妹がつかえているので、
我侭はが飢える立場ではありませんでした。
だったら、へんな会社に就職して人に使われるより、親父を手伝って腕一本の漁師で
稼いだ方がいい、と決めたのでした。
島の人間関係はうっとうしかったけれど、海は好きでした。

漁師仲間が青年会の集まりで島の娘の噂やらスケベな話しで盛り上がったり、
若いホステスの居る飲み屋に繰り出したりしている夜、私は一人で船の機関室に
ゲーテの「若きウェルテルの悩み」や、倉田百三の「出家とその弟子」などと言う本を
持ち込んで過ごすのが楽しみでした。

港の近くに、海水浴場がありました。夏になるとその監視員の仕事を青年会の若い
漁師仲間が分担して受け持っていました。他にも高校生のアルバイトも居て週に
一日だけだったのですが、是も私には苦手でした。

もちろん泳ぐ事は得意に決まっていますが、都会からやってくる人達の相手をするのは
やはり気が重く、皆の様に漁で鍛えた筋肉を見せびらかして喜ぶと言う気には、
とてもなれませんでした。ただでさえ人づきあいの苦手な私にとって、都会の若者は
まるで別の世界の人間の様に思えて、その馴れ馴れしいもの言いを相手にしていると、
頭が痛くなってくるほどでした。

傷の手当てをしたりトイレは何処かと聞かれたりするのはまあいいのですが、中には、
浮き袋で沖の方まで行きたいから着いて来てないかとか、ゲームの仲間に入って呉れとか、
そんな事を平気で言って来る連中もいるのです。特に若い娘達。

「むこうかて、俺らの体に興味あんのゃ。じろじろ見てくるやろ」
などと言って結構喜んでいる漁師仲間もいたのですが、今で言うホストクラブなどと言う
ものも無かった時代だったからでしょうか。

そんな訳で私はもう、監視員の詰め所にいたり浜辺を巡回することよりも、監視塔の
やぐらの上から泳ぐ人達を双眼鏡で眺めている方がずっと気楽でした。

夏の浜辺は、人を解放的にします。四十年前の当時でさえ、都会から来た若い娘と
セックスしてしまったと言う仲間の自慢話をよく効かされました。
「あんな大人しそうな顔をしてあの女、凄く尺八が巧かった」とか。
「水着を脱ぐと意外とオッパイが垂れていてがっかりした」とか、
嘘か真か知らないけれど、まあそんな話です。

そんな中で一人、誰も近づけない噂の美女がいました。多分別荘のお嬢様で、
何時も一人でやって来て、ただじっと海を眺めているだけだ、とか。
誰も話し掛けられないのに、あの白いワンピースの下は、
結構ムチムチの体しとんのと違うが、とか、あそこの毛はきっとものすごいモジャモジャで、
一旦男を知ったら、一晩中でもチンポを咥えて離さんようになるタイプや、なんて、
話しかける事も出来ないのならそこまで言う事もないだろうと思うのですが、
兎に角浜辺にやってくると誰もが、サカリがついてしまっていました。

そりゃあ黙って聞いていた私だって20歳の健康な男です。頭も体も、もやもやと疼いて
くるものは堪らないほどにありました。
いや、アッケラカンと助平な話の出来ない私は、所謂、ムッツリスケベと言うのでしょう、
人より我慢しているぶん、尚一層性に付いての興味は強かったのかもしれません。

正直に言えば、監視やぐらから双眼鏡を覗いていて、つい若い娘の柔らかそうな
体を追いかけている事は良くあったわけで、そんな時、気が付くと股間が硬くなりかけて
いたりしていました。

其の日私は、何時もの様に監視櫓に逃げ込んでいました。
陽が沈みかけて、泳いで居た人達も大方浜辺に上がっていました。
双眼鏡を横にずらしたその時、海水浴場の外れの岩の上に、
白い水着姿の若い娘が立っているのが見えました。

すらりと伸びた長い足で、きっと高級そうな水着です。まさか是から泳ごうと言う訳では
ないだろうが、一人で居ると言うのが、とても気になりました。
夕陽を受けてじっと動かないそのシルエットが、なんだか淋しそうな気配でした。

海面に人影がなくなったのを確かめて監視櫓を降りても、気に成ってしかたありません。
詰め所で報告会をして返る段になって私は、仲間と別れ、何となく胸騒ぎがするので、
双眼鏡をもって女性の佇んでいた岩場の方へ行ってみました。
もしも是から泳ごうと言うのなら、止める権利は無いけれど、
やっぱり放って置く訳にもいきません。

夜の海を泳ぐと言うのは、そうとう泳ぎ慣れた者でも結構怖いものがあります。
若い娘が一人で、と言うなら、尚更に違いありません。
岩の上に上がるとしかし、其の娘の姿はもうそこには有りませんでした。
周りに脱いだ服とかタオルのたぐいもなかったし、やれやれ帰ったのか、と岩を降り掛けて
海面を見ると、遠くに人の頭のようなものがみえました。

ボール型のブイではありません、たしかに人の頭です。
白いキャップに、見覚えがありました。少しずつ動いて岸から遠去かって行きます。
さっきの女性に違いありません。

海水浴場とは反対の方の沖に向かっています。白いキャップの進み具合で、
泳ぎはかなり達者なようですが、その上手さが却って何かに怒っているような
やけっぱちのような、そんな孤独な女の気配に感じられました。
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