女は顔じゃない。其の一
◇器量の悪い女の悲しみ◇

女の幸せは、一体なんで決まるのかと問われれば、大抵の人は正直、
器量と答えるに違いありません。
いいえ、女は顔じゃないよ、心だよ、と奇麗ごとを言って見たところで、
やはり現実は厳しく、女はその器量で差別される事が多いのです。

私は、小さい頃からそのきつい現実をイヤと言うほど思い知ってきました。
器量のいい娘たちは黙っていても周りからチャホヤされ、
優しくされるのが当たり前でした。

(それに引き替え、この私は・・・。いくら努力しても、認められないんだわ!)
昔から私は、自分の顔に対して、ひどい劣等感を持っていました。

私の顔はお世辞にも可愛いとか綺麗とかいう形容詞とはほど遠い、
不細工なご面相でした。目は小さな一重瞼、鼻だってぺちやんこでした。
おまけに、口唇もプックリ厚ぽったいと言う、悲惨な造りだったのです。

唯一の救いは白いきめ細かな肌だけでしたが、色白の肌のせいで、
顔一面に散ったソバカスがよけい目だってしまうと言う悲惨さでした。

「本当に、華子は名前負けしているねえ。ま、年頃になれば、少しはマシになるだろうし、
 女は顔より優しさだからね。心が綺麗なのが、いちばんなんだよ」
母親さえも、私の器量の悪さには辟易しているようでした。

けれど、そんな私を生んだのは、他ならぬこの母親なのです。
当然、私はこの親を怨みました。
(何よ、何よっ。お母さんが、もっと綺麗に私を生んでくれれば、
 私だって、こんな苦労をしなくて済んだのに!
 お母さんがオカメだから、私も似ちゃったんじゃないのっ)

しかし、どれほど頑張ってみても綺麗に成れる訳もありません。今と違って、
化粧品にも限りがあったし、ましてや整形美容などまったく普及していませんでした。

それでも、私は母の言葉どおり心までもブスには成るまい、と心掛けて来ました。
せめて心くらいは美人でいよう、と人知れず努力してきたつもりでした。
けれど、心の美しさと言うものは外見の綺麗さに比べて、人には判りづらいものです。
女の子が光り輝く年頃になっても、私の器量はまったく変わらず、
私は何処に行っても友達の引き立て役、目立たない日陰の存在だったのです。

友達たちが男の子と交際し、青春を楽しんでいる時、私は勉強に励みました。
お陰で、女学校の成績は何時もトップで、内申書も申し分ありませんでした。

「華子は、自立の道を考えた方がいいかも知れないねぇ。
 自分で、ちゃんと食べられるように手に職を持ってね。
 女の幸せは、結婚だけとは決まっていないからね。幸い、おまえは頭がいい。
 どこか、いい会社に就職できるに違いないよ。自信を持ちなさい」

女学校を卒業する歳に成っても、一向に良くならない私の器量に見切りをつけたのか、
母は母なりに私を励まして呉れました。母の言ったとおり、
「やったよ、お母さん。私M商事に採用されたの!」

私は、丸の内にある一流企業に就職が決まりました。
面接の際も美人が有利だろうと諦めていたのですが、
憧れのビジネスガールに成る事が出来たのです。

「さすが、大会社は違うねえ。見る目があるよ。おめでとう華子!」
当時、ビジネスガール通称BGは女性たちの憧れの的でした。
しかも、丸の内の超有名企業に就職出来たのですから、私は鼻高々でした。

(真面目に一生懸命やっていれば、報いられることもあるんだわ!)
このとき、私は初めて世の中、捨てたものではないと思ったものでした。

(社会人になっても、私、頑張るわ。仕事をバリバリやって、認めてもらうの)
社会に出るに当たって、私の胸は希望に膨らんでいました。
しかし、私を待っていたのは相変わらずの現実だったのです。
世の中、それほど甘くはありませんでした。

「いやいや、今年の新人社員の女性諸君は美人揃いだねえ。ま、だいたいだが・・・」
私が配属された営業部の新入りBGは数名いましたが、
私を除いてはいずれも標準以上に美しい人ばかりでした。
部長の嫌味な言葉に私が傷ついたのは、言うまでもありません。

それはいま風に言うなら、セクハラと言うことに成るのでしょう。
けれど、その当時は女性の容姿が社内でうんぬんされるのは、当たり前の事でした。
(差別だわ。ひどい。折角、社会に出て頑張ろうと思っていたのに・・・)

容姿での差別は、学生時代より露骨なものでした。
部長の采配で、私達の新入りBGの仕事の割り当てが決められたのですが、
私に与えられた仕事と言えば、お茶汲みならまだマシな方で、
ほとんどが掃除に買い物だったのです。

他のBGたちは、仕事らしい仕事にいそしんでいると言うのに、
私ときたら掃除のオバさんと余り違わない雑用しかやる事がありませんでした。
屈辱でした。

(やはり、女は器量なんだわ。いくらやる気や能力があっても、不器量な女には
 ろくな仕事さえもさせてもらえないのね。ひどいわ、世の中、ひどすぎる!)
そればかりか、仕事以外にも辛い事は沢山ありました。他のBG達は男性社員から
色々声を掛けられ、お昼やお酒に誘われる事もしばしばでした。

しかし、私には声ひとつ掛かったこともありませんでした。
無視されていると言うほどではなかったにしろ、
オフィスの中で、私は存在感がなかったのです。

「ねえねえ、西村さんってステキよねえ。部、いいえ、会社の中でもピカ一よねっ」
「やだァ、あなたも西村さんを狙っているの?ショツクだわァ」
「あーら、知らないの?西村さんは、全BGの憧れの的なのよ」
そんな折、社内のBGのあいだではちょつとした〈西村旋風〉が吹き荒れていました。
かくいう私も、密かにその旋風の中にいたのです。 

(ホント、西村さんってカッコいい。あんな人も、この世にはいるのね)
私たちより五年先輩の西村秀彦〈仮名〉は、文字通り営業部のホープでした。
有名国立大学出身の秀才で、仕事もバリバリこなし、
部長の覚えもめでたい有能な社員だったのです。
そればかりか、容姿の点でも言うことはありませんでした。

(容姿がよくて得をするのは、女だけじゃないのね)
背はスラリと高く、その彫りの深い容貌はそこらへんの映画俳優より
秀でていると言っても過言ではありません。
西村は才能も容姿にも恵まれた、天に二物を与えられた男性でした。
そんな西村が、社内中の女性の人気を独占していたのも、無理はありません。

(ああ、あんな素晴らしい人が恋人だったら・・・そんなこと、夢のまた夢だけどね)
私の西村に対する想いは、日に日に膨らむ一方でした。しかし、私には美女達に
囲まれた西村を遠巻きに、指を銜えて眺めているしかなかったのです。
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