女は顔じゃない。其の三
◇甘美な官能の感触◇

どうせ万に一つの可能性もないのなら、辛い想いを抱き続けて苦しむよりも、
いっそきっぱり諦めた方が身のため・・・。何度、己にそう言い聞かせたか知れません。
けれど、やはり恋心は理性で押さえつけられるものでは有りませんでした。
(やっぱりダメよ!私、どうしても西村さんが好き、好きで好きで堪らないのっ)

自慢では有りませんが、器量が悪い分、私は昔から頑張る事にかけては人一倍でした。
(だらしないわよ、華子!何の努力もしないで、諦めるなんて。人生、やってみなくちゃ
 判らないじゃないの。精一杯、努力して、それでもダメなら諦めれば良いわ)

或る日、私は百八十度、考え方を変えました。とにかく、遣るだけの事は遣って見ようと
決心したのです。見た目だって、目鼻立ちが変えられる訳では有りませんでしたが、
それなりに美しくなるよう心がけてみる事にしました。

多少、抵抗がありましたが、肌が白く綺麗に成ると言われていたウグイスの糞で洗顔し、
テレビのラジオ体操を観ながらカラダを動かしてみる、という私なりの努力を始めました。
服装や立ち居振る舞いにも、気を配る事を忘れませんでした。

そして、何と言っても私の隠し玉は仕事でした。西村の周りにはべっている美女たちは、
容姿こそ申し分なかったものの、それは白痴美と言ってしかるもので、
まったく西村の仕事の役には立っていませんでした。そこが、狙い目でした。

加えて運が良かった事に、当時、会社が大々的に行おうとしていたプロジェクトに、
私も今で言うアシスタント役として、まあ雑用に毛が生えた程度の役目でしたが、
加わる事になったのです。そのプロジェクトには、勿論西村も参加していました。
(これは、絶好の機会だわ。この機会に、西村さんの目に留めてもらわなくては!)

私は、その新規プロジェクトについてかなり勉強をしました。私の他にも、
何人かの女性スタッフがプロジェクトに加わっていましたが、彼女たちはお茶汲みと
愛想を振りまく以外まったく無能でした。そして、彼女たちは五時に成ると、
さっさと帰ってしまいました。けれど私は彼女たちと違っていました。

彼女たちと同じにしていたのでは、西村に認めてもらう事など出来ません。
私は、他の男性社員と同様、昼夜・休日を問わず仕事に励みました。
その甲斐あってか、私の評価は日々、上がって行きました。

「華子くんは、なかなかやるなァ。腰掛け半分の他の女性たちとは、一味違うよ」
「有能だけど、でしゃばらないところが奥ゆかしくていいよな」
周りの目が変わってきたのが、自分にもわかりました。
しかし何より嬉しかったのは、仕事を通じて西村と親しくなっていったことでした。

「今夜、仕事が終わったらチームの皆で飲みに行くんだ。華子くんもどうだい?」
「まあ、嬉しい!ぜひ、一緒に連れて行って下さい!」
毎日が楽しくて仕方ありませんでした。西村との距離は、一日一日縮まってゆきました。
西村と一緒なら、女だてらの徹夜も辛くは有りませんでした。そんな時は今時のように
コンビニなどない時代でしたから、夜食は私の手料理(と言ってもオニギリとかサンドイッチなど
簡単なものでしたが)を皆に食べてもらいました。

(努力すれば、報われるのよ。世の中、確かに甘くは無いけど、
 それほど捨てたものでもないわ。このままでいけば、もしかしたら私達・・・)
不可能が可能に変わるかもしれない、そんな予感にふるえ始めた或る日の事でした。
予感が的中するかのような、私にとっては大事件が起こったのです。

「華子ちゃん、こんどの日曜、空いているかな?」
何と、西村がデートに誘ってくれたのです。
「よかったら、映画でも観に行かないかな。日比谷で“銀座の恋の物語”がかかってるんだ。
 いつも華子ちゃんには仕事で助けて貰っているから、そのお礼がしたくて。
 夕飯もおごらせてくれよ」
「ま、まあっ、喜んで、喜んでお供しますわ」

本当に、天にも昇る心地とはこのことでした。私が、西村に誘われた事は、
あっという間に社内中の噂になりました。信じられない事でしたが、
西村はまだどの女性にもデートの申し込みをした事が無いという話でしたので、
それは大騒ぎでした。

「どうして、よりにもよって、西村さんはあんな子を気に入ったのかしらっ」
「まったくよ、趣味の悪い!西村さんがあんな悪趣味とは知らなかったわ。幻滅!」
「バカにするにも、ほどがあるわ。私たちより、あんなオカメを選ぶなんてっ」
しかし何と言われようと、私はきにしませんでした。まさに、我が世の春でした。

しかも、デートは一度きりに終わりませんでした。西村は、
「まったく、華子ちゃんて楽しい人だね。話題が豊富で愉快だよ。
 ふつうの女の人って、話題が美容の事とか芸能界の事ばかりで辟易するんだが、
 君はいろいろな知識を持っているんだね。
 それに、そんなことはおくびにも出さないところも好感が持てるよ」

私が思っていた以上に、私の事を気に入ってくれたようでした。
私たちは、何度か清らかなデートを重ねました。
そして、ついに私が期待していたことが起きたのです。

(もう、何回も二人きりで会っているっていうのに、全然いい雰囲気にならないわ。
 もしかしたら、西村さん、私に同姓の友達みたいな感情しか持って居ないのかも知れない)
半分、焦り始めていた頃でした。その日も私は西村に誘われ、新宿のガード下でお酒を
飲んでいたのですが、その帰り道ついに心待ちにしていた展開が開けたのです。

「華子ちゃく、よかったら、ボクの下宿によっていかないか?」
「え?こ、これから、に、西村さんの下宿に?!」
「非常識かなァ。華子ちゃんちの門限までには帰すよ、約束する」
「いいのよ、門限なんて。喜んで伺うわ」

夜も遅い時間に男の人の一人住まいを訪れるなど、確かに当時は非常識な事でした。
けれど、とうとう西村が私の待ち望んでいた行動に出てくれたのです。
(簡単にホイホイ男の人の住まいに着いて行くなんて、安っぽい女と思われたかしら。
 でも、でも、私、嬉しいッ。だって、本当の意味でやっと二人きりに成れるんだもの!)

西村の下宿は、閑静な住宅街にあるアパートでした。二階にある西村の部屋は、
男の一人暮らしらしく乱雑に散らかっていました。私は、安心しました。
(ふふふ。こんなに散らかっているってことは、他に女はいないってことよね)

「ごめんよ、華子ちゃん。足の踏み場もなくて。いま、お茶でも・・・」
西村は恐縮して、照れくさそうに頭を掻きました。そして、台所に立とうとしましたが、
「そんなこと、私がするわ!」
私はそれを制しようと、手を彼の方に伸ばしました。弾みに、手と手が触れ合うと、
「華子ちゃん、ぼ、僕の事、どう思っててる?」

唐突に、西村が私の手を強く握り締めたのです。もう、心臓が飛び上がりそうでした。
本・漫画・DVD・アニメ・家電・ゲーム | さまざまな報酬パターン | 共有エディタOverleaf
業界NO1のライブチャット | ライブチャット「BBchatTV」  無料お試し期間中で今だけお得に!
35000人以上の女性とライブチャット[BBchatTV] | 最新ニュース | Web検索 | ドメイン | 無料HPスペース